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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
人間ばかりではない、馬もすこし厩に怠けさせておくと、どんな名馬でも、いざ合戦となっては、物の役に立たないものである。だから調馬は侍の日課であった。
「やあ」
「おう……」
行き交う者はみな六波羅武士である。馬上会釈のままで過ぎるもあるが宗清は、陪臣なので、清盛一門の人とか、直臣の名だたる衆に出会えば、いちいち下馬の礼を執らなければならない。
「藤三」
と、口取の小侍へいう。
「はい」
「きょうはまた、わけても多く、ご一門や公卿方が通るの」
「きょうには限りませぬ。いやもう世の中は、正直すぎるものです。源氏滅亡と見えたとたんから、六波羅御門は、牛車、お馬、輿など、千客万来を呈しております。――この大和大路の往来が、そのため以前とはがらりとちがって来たほどで」
「横へ曲がれ」
「裏通を参りますか」
「閑寂でよい」
「遠方此方、だいぶ梅も咲き出しました」
徒然草に見える那蘭陀寺あたりの址である。梅ばやしを透いて、六波羅地蔵の蒼古とした堂が見える。
やや行くと、池があった。
「脚を冷やしてやれ」
宗清は、池の畔まで来ると、鞍から降りた。心得顔に、
「はっ」
と、藤三はすぐ空馬の口を曳いて、池の汀へ馬の脚を沈めた。