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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

獣小屋を窺ってみると人気はなく、土間には土を掘った炉穴に榾の燃え残りがいぶっている。辺りの薪をくべ足し、腰をおろして、

「金王。おぬしは、京へ戻るというが、都の内には、平家に降を乞うて、生き長らえておるような腰ぬけはいざ知らず、源氏と名のつく者は、一人だに、陽の映す下は歩けぬ世となり終ったが……そうした危うさを合点で行くのか」

「元よりです。乱後まだ一日か二日、洛内の余燼もいぶっておりましょう。勝ち誇った平家の武者ばらの気も立っておりましょう。けれど十分、心して、敵の目をぬけて紛れ入るつもりであります」

「そして?」

「その先の事ですか」

「されば……おぬしの仰せつかった使命の的は、およそ察しはついておるが」

「いや、そのお使いは頭殿から仰せ出した儀ではありません。お口にだに洩らさぬだけに、お胸のうちを察して、この金王から途々何度も申しあげ、ようやく、ではとお許しが出たので参るのです」

「よくぞ気づかれた。われら源氏という者の一門は今日亡び去っても、明日へながれる血は亡びぬ。その一脈のお血につながる可憐しきお人や幼い方々が、まだ都には残されておざったな」

土間炉の榾が燃えてきた。