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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
――過るなよ。世の中はうごいているぞ、人間は生き物だぞ。戦や政治のあいまには、せいぜい仏者遊びもよい。だが伽藍の中か小松谷の館の中でやれ。――清盛のまえへなど持ち出して参るな」
清盛は赤くなって云う。云って云って云い捲ったつもりでいる。
けれど、熱に渇いた唇をなめて重盛を見直すと、初めから刻経った今まで、ささ濁りもせぬ水のように澄みきっているのだった。
「そうです。父君のお察しのとおり、禅尼様ばかりでなく、それは私も望んでいる事にちがいありません。一門の将来と、父君の人望を考えるからです。前に保元の乱の後、敗れた敵方の者を、日頃の悩みにまかせ、老も若きも、敵に有縁の者とみれば、仮借もあわれもなく斬殺した信西どのの終りはどうでしたか。武門に生れ武門に死ぬるさだめの私たちには、きょうの敵の身の上も、他人の運命ではありませぬ」
「何をいう。和郎等を、そうさせたくないばかりに、この父は」
「子への慈悲なら鳥獣にもある天性でしょう。何もお父君のみが」
「談義! やかましい」
清盛は、最後の一喝を放つと、両手で耳を掩ってしまった。
「わしはその慈悲人情が、あまりありすぎて当惑しておるくらいなのだ。