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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

彼の歎声は真実だった。可惜――と心の底から出たのである。

「常磐」

「……はい」

「顫いておるらしいが、何も恐がるに及ばぬ。そなたに罪はない。合戦は、清盛と義朝のいたした事だ」

「…………」

「女どもが知った事ではないが、そもそもは、義朝の愚が清盛を幸いさせてくれたようなものだった。彼は、一個の武弁に過ぎない男で、清盛ほどの政略もないのに、公卿の政争に組したのが禍いの因といおうか。――何にしても、武門のならいとはいえ、気の毒なのは、一族門葉、それに何も知らないお前どもだ。――がしかし、清盛は、そなたのような者まで斬る気はない。安心するがいい」

「……も。……もしっ」

常磐は、必死にさけんだ。

「わたくしの生命は、ゆめ、惜しいとはぞんじませぬ。……お慈悲を。どうぞ和子さまたちの一命を」

ことばの終るも待たなかった。まるで別人がどなったかと思われるような、大喝で、

「図にのるなッっ。女ろう!」

「…………」

「あわれをかければ、すぐつけ上がる。女どもの憎い癖だ。そちは元より氏素姓もない九条院の雑仕女、義朝の寵をうけたといっても門外の花だ。しかし抱えておる子たちは正しく源氏の血流、ましてみな男の子。