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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「あ、有難うございます」
と、心から礼をのべた。
心からであったが、自分でも余りはしたなく泣いた事を、すぐ後では恥ずかしく思い出したとみえ、威儀改めて、両手をつかえた。
「どこへ、身は流される事か、分りませぬが、禅尼さまへ、何とぞよろしく、おつたえ置き下さいまし」
「いや、その前に、一度お目もじ申しあげて、お礼をのべられるよう、重盛が計ろうてとらせよう」
重盛が帰ると、その夕、正式の沙汰を携えて、六波羅の役人が見え、
伊豆の国へ配流の事。
三月二十日、京師を立って、配所の地へ、下され申すべき事。
の二つを申し渡した。
その日の来るのを、頼朝はどんなに待ったかしれない。幽室から空ばかり見ていた。
日が近づくと、宗清は、
「伊豆へ下られる道中、六波羅からは、追立役の検使、警固の青侍などがついて行きますが、不親切はいうまでもありません。誰か、せめて途中までも、お付添いしてくれそうな、ご縁故の者はありませんか」
と、訊ねた。
頼朝は小首をかしげて、父の知る辺や、家来の名などを、しきりと思い出しているようだったが、やがて首を振って、
「ありません。――あっても、六波羅どのを憚って、誰も従いて来てくれる者はないでしょう」