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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

頼朝は、云わるるままに、身のまわりを整えて、縁つづきの一室を窺い、

「弥兵衛、起きてか」

と、訪れた。

すぐ、宗清が顔を出して、

「おう、佐殿か」

と、縁に立ち並び、

「お早いお目ざめでしたな。ゆうべは、更けるまで、禅尼様とおはなしで、眠る間はなかったでしょう」

「いや、たくさん寝たよ」

「そうですか。きょうから長いお旅路です。――また、馬の上で居睡りなど遊ばして、連れにお逸れ遊ばさないように」

「はははは。だいじょうぶだよ、今日は」

頼朝は笑った。

宗清も笑い合った。

馬の上で居ねむりしたため、雪の近江路で、父や一族に逸れた時のはなしを――ゆうべ禅尼や重盛や宗清などに囲まれて無邪気に物語ったのを、思い出したからである。

無邪気といえば。

死罪一等を減じられて、伊豆へ流罪ときまってから、頼朝は、口のききようまで、子どもらしくなっていた。きょうまでの毎日毎日を他愛なく暮して、

(待ち遠しい。待ち遠しい。はやく伊豆の国というところを見たい)

と、云っていた。

ゆうべも、禅尼から、

(なんぞ尼からもお餞別をあげましょう。何が欲しいとお思いか)

と、訊かれたのに対して、頼朝が、