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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
三
――それがために、あなた方は、よく働き、よく肥えて、いかにも逞しくは見えるが、心のうちというものは皆さびしくて暗い。衣食に貧しい上に、心までが貧乏人である。――心の富むすべを――心はいつも幸福で無碍自由にこの世を楽しむことができるのが常であるのを――それを知らないあなた方は、それを宿命のように、鈍々と、牛か馬のようにただ喰って働いている。まことにあわれな生活といわなければならない。食物は鳥獣でさえ天禄というものがあるのに、万物の霊長といわれる人間が、ただ喰うためにのみ働いて、この世を楽しむすべも知らないというのは、情けないことではないか。楽しまずして何の人生ぞや――である。ではこの毎日を、どうしたら楽しんで、この大地と生命に、生きる感謝を持って生きることができるかというならば、お互いのこの世間を、まず浄土にしなければならない。この世間を浄土にするには、まずその前に人間であるおのおのが、心の病巣を取り除かなければその実現はむずかしい。われのみひとり幸福になろうとしても幸福にはなれない。そこに気づいた衆は、妻をも誘い、舅もさそい、隣の衆も誘い合って、昼間の野良仕事が終ったら、ほんの半刻の暇をさいて、この親鸞の寺へござれ、親鸞はいかなる重い苦患になやむお方とも、御仏に代って、心の友となろうほどに――」