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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

人の声か、仏の声か。

平次郎の耳の垢の隙間から諄々と入ってくる上人のことばは、皆平次郎にとって救いであり慰めであり、そして温かかった。

「――おもと、ふるえているの。そうか、おそらくはなんぞ勘ちがいしてござるのじゃろう、それでは、その恐怖から先に取り除けてあげよう」親鸞は、諭して聞かせた。

「今朝方じゃった――まだ夜の明けたばかりのころ、この御堂の角に、不愍や、一人の女房が悶絶している。誰ぞやと手当してやれば、それはおもとの内儀――このお吉どのだった。お吉さんは、よく稲田のわしの所へも信心に見えられたが、良人の心に逆ろうてはと、ふっつり、足を止めていたのじゃ。わしがその折、御名号を書いて与えたが、見ると、今朝気を失うている折も、確乎と、それをふところに抱いていた。――やがて、弟子衆の介抱で、われに回ると、さめざめ泣いてばかりおる。で――きょうのお式の前にと、別室へよび、仔細をつぶさに話してもらいました。平次郎どの、わしが証を立ててもよい、お吉さんは、おもとの疑うているようなそんな女子では決してない。世にもめずらしい仏性の女子じゃ、許してあげてくだされ、そして、愛しんでおやりなされよ」