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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

もみ烏帽子や市女笠や、白い頭巾――桃いろの被衣などが、野や畦を、ぞろぞろとあるいてゆく。

山家の娘や、老人や、若い者たちまで、新しい衣裳を着て、芳賀郡の大内へ――柳島の建立を見に――詣でに――たいへんな人出なのである。

平次郎は、びくびくとして、その人たちの中にまじって入って行った。自分の袂にさわる人間にもぎょっとした。しかし、人に馴れるに従って、大胆になってきた。彼は、いつのまにか、にこやかな笑い顔を作り、平然と装って、

「よいあんばいですな」と、そばの者に話しかけたり、

「よう、おはよう」と、仲間の者を見ると、こっちからわざと挨拶して行ったりしていた。

「平次、おめえは、仕事着のままじゃねえか。どうして今日は、垢のつかねえ衣裳を着てこねえんだ。お吉さんといういい女房もついているのに、気がきかねえ」大工仲間の老人にいわれて、平次郎は、ぎょっとしたが、

「ところがね、あのお吉が、ゆうべ隣村の身寄りの者の家へ行ったきり、どうしたのか、今朝まで帰ってこねえんでさ。……で、面倒だから、つい、いつもの仕事着で来てしまったんですが、これじゃいけねえんですか」

「わるいことはないが、今日は、仕事は何もありゃあしねえ、みんなお上人様のお式を拝みに来ているのだから……」