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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

十一

……だのにあれきり音沙汰もない」

いつぞや天城四郎と立ち話でかたい約束をして別れた加茂川の堤だった。そこへ彼はおとといも来てみた。きのうも来てみた、そしてまた今日も、

(もしや?)と思って来たのである。

しかるに天城四郎は影もかたちも見せないではないか。聖護院のほうへやって来るかと心待ちにして、毎日、帰るとすぐ宿房の下男に聞いてみるが、手紙も来なければ、使いも見えない。

(まあ、見ていろ。近いうちにおれが吉報を持ってゆくから――)と、さも無造作にいって、松虫と鈴虫の局のありかを突きとめてくるように広言して行ったくせに、十日以上も沙汰なしとは、いくら盗賊の通癖とはいってもあまりにずぼら過ぎる。

「あいつが広言を吐いてひきうけるようなことをいわなければ、おれが自身で探したものを――」弁円は、腹が立って、たまらなかった。しかし、その文句をいう相手がいないので、彼はつい、独り言に、そうつぶやいて、河原の方を見たり、堤の上を眺めたり、ややしばらくを、意味なくそこで立ち迷っていることしかする術はないのであった。

彼がしきりと焦心っているのも、実は無理でないのであって、仙洞御所の命はいよいよきびしく、中務省の吏員はやっきになって、二人の局の詮議に今は白熱しているかたちなのである。