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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

「範宴どのは、黒谷の吉水禅房に在わす法然上人にお会いになったことがありますか」言下に範宴は答えた。

「かねて、お噂は承っていますが、まだ機縁がなく、謁したことはございません」

「大きな不幸ですな」と法印はいった。

「ぜひ、一度、あの上人にお会いになってごらんなさい。私がここで、その功力を百言で呶々するよりは、一度の御見がすべてを、明らかにするでしょう。私も初めのほどは、ただ奇説を唱える辻の俗僧とぐらいにしか思わないで、訪れを怠っていましたが、一度、法然御房の眉を仰いでからというものは、従来の考えが一転して、非常に明るく、心づよく、しかも気楽になりました。なぜもっと早くにこの人に会わなかったのかと機縁の遅かったことを恨みに思ったほどでした。ぜひあなたも行ってごらんなさい」熱心にすすめるのだった。

黒谷の念仏門で、法然房の唱道している新宗教の教義や、またそこに夥しい僧俗の信徒が吸引されているという噂は、もうよほど以前から範宴も耳にしていることであって、決して、安居院の聖覚の言葉が初耳ではなかった。

けれど、法印も今告白したとおり、在家往生とか、一向念仏とか、易行の道とか、聞く原理はいわゆる仏教学徒の学問の塔にこもって高く矜持している者から見ると、いかにも、通俗的であり、民衆へ諂る売教僧の看板のように見えて、そこの