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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

草の月

一

と断って、村の男たちが三、四人来て、配所の家のまわりの夏草を刈り初めた。

一人はまた、いつ見ておいたのか、上人の居室の窓に西陽があたるので、そこへ高い垣を結って、糸瓜の苗を植えようかなどと話している。

親鸞は、縁へ出てきた。一同のほうへ向って、彼は仏陀に礼拝するのと同じように、おごそかな礼儀を施して、

「みなの衆、ちと待ってくだされ、お心のほどは辱けないが、親鸞は勅勘の流人、この家は罪を慎む配所でござる。されば、冬は寒いがよく、夏は暑くてこそ、流人の糾明になりまする。人なみに夏草を刈って、すずやかに朝夕を楽しんではなりませぬ。――朝命に反きまする、どうぞ、さようなことはせずにおいてくだされい」

「なんの、お上人様は、あまりにご遠慮ぶかい、草ぐらい刈ったとて」

「いや、そうでない、よしお上でお咎めなくとも、親鸞の心が苦しみます。――また、そもそも人間は、家の中に棲むものか、心のうちに棲むものか、それを思うて御覧ぜられい。親鸞は常に心のうちに住んでおるゆえ、心のうちの雑草は刈ろうと思うが、家のまわりの草などはどうでもよいのじゃ」

「ほほおもしろいことを仰っしゃる。