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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

紅玉篇

かげろう記

一

と、絶叫した。吉光の前も、さけんだ。

「十八公麿じゃ。ほんに、今いうたのは、十八公麿じゃ」うれしさに、狂いそうな表情をして、宗業に告げ、範綱に告げた。

「? ……」だが、そのふたりは、茫然と自失していた。なぜならば、今の無心に出た十八公麿の声は、ただの嬰児の初声ではない。あきらかに六字の名号を唱えたのである。眼のあたりの奇蹟にうたれて、慄然と、体がしびれてしまったかのように、沈黙しているのであった。

「ふしぎだ……」

「そも、何の菩薩の御化身か」と、ふたりは、後になってまで、解けないことのように首ばかりかたげていたが、有範は、それはなんらの奇瑞でもふしぎでもないといった。

「真如を映すものは、真如である。――妻のまごころは、胎養のうちに、十八公麿の心をつちかっていた。また、生れては、この家の和楽や、この家にあふるる法の感謝に、いつとなく、幼いたましいまでが、溶和されていたのは当然なこと。なんの奇蹟であろうぞ」

そう説明したが、ありがたさに彼も、彼の妻も、掌をあわせて、真如の大空に、

「南無――」と、思わず大きく唱えて、泣きぬれた。

紅玉篇

かげろう記

一

承安四年は、仏法日本にとって、わけて念仏道にとって、忘れがたい春秋であった。