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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
二
じっと、炉の中の美しい焔に眼を落したまま――。
外には落葉の音がする。冬の夜の訪れが、しきりと、禅房の戸をがたがた揺すぶってゆく。
「綽空どのは、頬のあたりがすこし肥えられた」蓮生房がつぶやくと、炉をかこんでいる心寂や、弁長や、念阿や、禅勝などの人々が、そっと彼の顔を見まもって、
「ほんとに」といい合った。綽空は、うなずいて、
「ここにいて、肥えなければ嘘でしょう」
「初めて、お見かけした時は、痩せておられた」
「あのころの私は、形骸だけでしたから。――今はこうして炉に向っていても、魂までが、ほこほこ温もるのを感じてきます」
心寂が、まるくしていた背をのばして、
「誰にも、一度はそれがあったのだ――。わしなども」恥かしそうに何か回顧する。
「そうそう」と、念阿がそれを話した。
求菩提の心にもえていたころの心寂には、こういう俗縁や市塵の中にいては常に心が乱されて、ほんとの往生境には入り難い。――こう彼は考えて、上人に、遁世を願った。上人はゆるされた、心寂は草鞋をはく時、
(いずれ、再会は極楽で)といって、立ち去った。
それから彼は、河内の讃良にながれていた。そこの奇特な長者の後家が、まことに信心のふかい善尼なので、彼の望みをかなえてやろうと、林の中に、一つの草庵をつくり、食物はあげるから、思うさま念仏してお暮らしなさい