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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

あしたは叡福寺を立とうと思うが、もう叡山には帰らないつもりです」

「して、これから、どこへさして行かれるか」

「あてはない……」聖覚はうつ向いて、さびしげに、

「ただ、まことの師をたずねて、まことの道を探して歩く。――それが生涯果てのない道であっても……」二人の若い弥陀の弟子たちは、じっと、そばにある紙燭の消えかかる灯を見つめていた。

すると、更けた夜気を裂いて、どこかで、かなしげな女のさけび声がながれ、やがて、嗚咽するような声にかわって、しゅくしゅくと、いつまでも、泣きつづけている――

「はて、怪しい声がする」範宴が、面をあげると、聖覚法印も立ちあがって、

「どこでしょう。この霊地に、女の泣き声などがするはずはないが……」と、縁へ顔を出して、白い冬の夜を見まわした。

五

「はての……普請の経堂の中でする声らしい。……ちょっと見てきましょう」法印は外へ出て、経堂のほうへ出て行ったが、やがて、しばらくすると戻ってきて、

「世間には、悪い奴が絶えぬ」と義憤の眼を燃やしながら、範宴へいうのであった。

「若い女でも誘拐かしてきたのですか」

「そうです。――行ってみると、野武士ていの男が、経堂の柱に、ひとりの女を縛りつけ、凄文句をならべていましたが、どうしても、女が素直な返辞をしないために、腕ずくで従がわせようとしているのでした」