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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

そして、僧正がいわれただけの言葉では、まだ社会へ対して、答えきれていない気がするのであった。仏法と女性、僧人と恋愛、それは、決して、一首の和歌の問題ではない。

この数日、範宴はそのことについて、熱病のように考えてばかりいた。解けない提案にぶつかると、それの解けきれるまでは夢寐の間にも忘れ得ないのが彼の常であった。

それから十日ほど後。青蓮院の文使いが見えた。

師の僧正からで、頼みの儀があるから来てもらいたいという文面であった。

五

僧正は待っていた。いつもながら明快で、元気である。訪れた範宴の顔を見ると、

「よう来てくれた。実はちと頼みおきたいことがあって」と、人を遠退けた。

「何事でございますか」範宴は、何となく、青蓮院のうちに、静中の動とでもいうような波躁ぎを感じながら師の眉を見た。

「ほかではないが、ことによると、わしはしばらく遠地へ参るようになるかもしれぬ。で、留守中のことども、何分、頼みおきたい」

「突然なことをうけたまわります……して何地へ?」

「何地へともまだわからぬが、行くことは確からしい。いつ参るともさしつかえないように、これに、いろいろ覚え書をいたしておいた。