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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

ひどく昂ぶっているのだった。

「あんな、酔いどれの法師を撲ったとて、なんになるか、俺は愚かな真似をした。俺の相手は、綽空ではないか」黒へ向っていうようにつぶやく。

「俺は、かつて放言した。――一生のうちには、必ず貴様の上に立ってみせると。――だが容易に俺の地位は上がらない。二十年前に、彼奴と会った時は、俺は叡山の仲間僧だったし、彼奴はすでに、授戒登壇をゆるされた一院の主だった。またそれから十年後に、大和路の旅先で出会った時には、彼は、もう少僧都範宴となり、南都にも聞えた秀才であったが、俺は、聖護院の端くれ山伏にすぎなかった……」黒を刎ねのけて、彼は、むっくりと坐り直した。汀に刎ねた魚の影を見て、黒は、ぱっと、水際へ走った。

「それから数年、俺は、大峰へ入り、葛城へわけ登り、諸国の大山を経巡って、役の優婆塞が流れを汲み、孜々として、修行に身をゆだねてきたが、それでもまだ聖護院の役座にさえ登れず、旅山伏の弁海が、やっと本地印可の播磨房弁円と名が変って、山伏仲間で、すこし顔が知れてきただけのものだ。――そして久しぶりに、都の様子を見に来てみれば、綽空めは、またぞろ、前関白家の聟になるとか、ならぬとか、いつもながら、問題の人物になっている」