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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

額に汗をして、そこまで、一息にいった。

そして、りいん! とさらに、鈴を振りかけると、

「乞食法師、待てっ」誰か、呶鳴った。

赤い直垂が、人垣を掻きわけて、前へ出てきた。

(六波羅小僧)人々は、眼と眼で、ささやき合った。不安な顔をして、法師の鈴と、少年の鞭とを、見較べた。法師は、傲然と、

「何かっ」と、いった。

平家の庁の威光をかさに着て、いかにも、小生意気らしい町隠密の少年は、鞭で、大地をたたきながら、

「おのれは今、――富者も餓鬼、――貧者も餓鬼、――そして、雲上は政権の争奪と、逸楽の妖雲におおわれていると」

「ははは……人の話は、仕舞いまで聞け、それは、昨日の源氏の世をいうたのだ。……これから、今日のことをいう。だまって、そこにいて、聞いておれ!」

鈴を、ふところに入れて、その懐中から、文覚は、何やら、紙屋紙に書いた一連の反故を取り出した。

二

「これは、勧進の状」文覚は、群衆へいって、それから、おもむろに書付をひろげだした。

眼の隅から、刎き飛ばされたように、六波羅童は、手もちぶさたに、人混みの中へ、引っ込んでしまう。

(ざまを見ろ)というように、人々は、赤い直垂の尻を、眼で嗤った。