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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

六

こぞって、吾々は、座主の私心を糺弾しようじゃないか」

「そうとも、おのおのは、宿房に帰って、院主や阿闍梨たちにも、このことを告げて、一山をうごかせ!」と、さけんで、別れた。

六

根本中堂は、静かだった。

一山の若い学僧たちのあいだに範宴の問題から、座主の慈円僧正に、ごうごうと、非難が起っているなどとは登岳以来、そこに、常住していた僧正も、範宴も、性善坊も、すこしも、知らないことであった。

中堂の薬師瑠璃光如来のまえに小さな範宴は、朝に夕べに、生涯の精進をちかっていた。この北嶺の頂へのぼってからは、何か、今までよりは、仏の側へ、一歩、近づいてきたような心地がして、うれしかった。

範宴が、師の僧正に仕えているように、その範宴のゆく所に添って、影のように、彼を守っているのは、性善坊であった。

その性善坊は、今日、東塔の南谷まで、使いに行って帰ってくる途中であった。

「おいっ」誰か、呼ぶので、

「はい」性善坊は、ふり向いた。肱を突っ張った一人の大法師がつかつかと、寄ってきて、

「中堂の宿房にいる性善坊というのは、おまえか」

「そうです」

「おれは、西塔の双林寺にいる妙光房浄峨というものだが」