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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

燎原の火

一

自分の首があぶないし、第一に主人の身にも災難のかかるのは知れている。

また、寿童丸の郎党たちも、傍若無人である。主人の子の学業が終るのを待っている間には、近所の里の女をからかったり、石つぶてで、雀を打ち落して、供待部屋の炉で炙って喰いちらしたり、はなはだしい時は、こっそり、酒などをのんでいる。そして、

「おい、介、公卿奉公もよいが、選りに選ってお牛場の落魄れ藤家などへ、なんで、物好きに住みこんだのだ。おれの主人の邸へ来い、厩掃除をしても、もうちっと、身ぎれいにしていられるぞ」などと、無礼をいう。

(よせ。かまうな)と、介は、そのたびに、箭四郎を眼で抑えていた。箭四郎の方が、年上であるけれど、介がいつも止め役だった。若い血気さにおいては、当然、介の方が先に逸るべきであるが、彼には、以前の苦い経験があるので、じっと虫を抑えているのであった。

燎原の火

一

朝だった。奥の御用で、何か町まで買物に出た箭四郎が、

「介っ、大変だぞっ」と、その買物も持たずに戻ってきていった。

「どうした?」

「戦だっ」

「またか」めずらしくもないように介はつぶやく。箭四郎は、昂奮して、

「いや、こんどの火の手は、ほんものらしい。