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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

「…………」国時は、考えこんだまま、即答を与えなかった。親鸞は、足を運びかけて、

「では、大内殿。旅の支度もあるで、わしは、今日はこれで戻ります」

「お戻りか」国時は、顔を上げて、五、六歩親鸞のあとに尾いて送って行きながら、

「ただ今のおことばによって、今日の罪人は、宥してつかわすことにいたしまする」といった。親鸞は、自分のことのように、

「かたじけない」と、足を止めて、国時へ向って頭を下げた。

親鸞が戻って行くと、間もなく、城主の国時も館へ帰って行った。

大工棟梁の広瀬大膳と、奉行の藤木権之助は、

「命冥加な奴めが」と、捕えておいた河和田の平次郎の側へ来て、懇々と、説諭を加え、

「上人の有難いお旨を、忘れるでないぞ」と、いい聞かせた上、縄を解いて、放してやった。

「へい」平次郎は、神妙そうに、頭を下げて、逃げるように、丸太足場の上へ登って行った。――だが、役人たちの眼から離れると、彼はすぐいつもの兇悪なひねくれ者に返っていた。

「ちぇっ、ふざけやがって。誰も生命を助けてくれとはいやあしねえ、おれがいなくっちゃ造営の仕事に困るから助けて置くんだろう、それを恩着せがましくいやがって笑わせるな」