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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
三
「和子様か」変った彼のすがたに、箭四郎は、洟をすすった。
「お養父様は」
「おかわりもございませぬ」
「朝麿は」
「おげん気で、日にまして、ご成人でございまする」
「わしのこと、問うか」
「はい……。このごろは、やっとすこし、お忘れのようでございますが」
「さびしがっておろうの」範宴は、庭へ下りて、籬に咲いていた白菊を剪った。
「これ、朝麿に、持って行って賜も。――わしの土産に」そういうと、性善坊が、
「よい土産がある。範宴さま、あれを箭四に持たせておつかわしなされてはいかがですか」
三
「おお、ほんに」範宴は、箭四郎の手をとって、
「よいものがある」
「なんでございますか」
「まあ、来てみやい」自分の居間へ伴れて行った。
「あ……」箭四郎は、ぺたんと、部屋のまん中に坐って、一隅にある木彫の坐像にまろい眼をみはった。
それは、得度をうける前の十八公麿のすがたのままであった。頭には、黒髪まで、ふさふさと植えられてあるのである。
「これは、どうしたものでございますな」
「されば」と、性善坊は、側から、その坐像のできた由来を話すのに、つぶさであった。
光斎と、祥雲の二人の仏師は、十八公麿の面ざしを見て、よほど、心をひかれたらしい。