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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

九

――その時またちょうど、村へ来ていた修験者が、病気ならわしにまかせろ、きっと癒してやるというので、加持祈祷に、夫婦も共に、精を打ちこんで、病児の恢復を祈っていたところ、病気は日ましに悪くなって、とうとう死んでしまった。

それからである――平次郎の気が急に変ってしまったのは。

(神も、仏も、あるものか。あいつらあ、神とか仏とか、ありもしねえ嘘ッぱちをいい触らして、飯のたねに、食い歩く山師だ)

仏壇も、神棚も、平次郎は川へ運んで行って流してしまった。

それからというものは、急に、酒は飲むし、飲めば酒乱になる。そして、仕事はろくにせず、すこし余裕があれば、博奕、女狂い、喧嘩、手がつけられない人間になった。

お吉は、良人の気持を、無理もないと思って、初めは素直にしていたが、元より貧しい職人の世帯である。折にふれて何かいうと、平次郎は、ふた言めには、

(出て行けっ)であった。彼女の体には、生傷がたえなかった。けれど、

(今に――今に、眼がさめる日も……)と、お吉は、貞節を守りとおしてきた。なんと怒られても、疑われても、彼女は、心のうちに、じっと涙をのんできた。

それも久しい年月である。