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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

「範宴の講義を聴いたか」一山の者の眼は、彼の声にその新しい力を感じて不安に駆られた。

「どんなことをいうのか」

「まあ、いちど行ってみろ」禿谷の講堂は、一日ごとに大衆で埋まった。法筵にすわれない人々は講堂の縁だの窓の外に立って彼の声だけを聞いていた。

彼の講義が熱をおびるほど、大衆も熱し、そして、内心深く考え直して衝たれているものと、範宴に対して飽くまでも闘争的に反感をいだいている者とが、はっきりと分れていた。

むろん彼に帰依する者よりは、彼を嫉視し、彼を憎悪する者のほうが遥かに多い。その険悪な大勢の顔からは、殺気が立ちのぼっていて、講義の要点にすすむと、

「邪説っ、邪説っ」と、どなったり、

「奇を衒うなっ」と弥次ったりして、時には、立って講壇へ迫ろうとするような乱暴者があったりした。

そして範宴の帰りは、いつも薄暮になるので、性善坊は師の一身を案じて、

「どうか、はやくご講義を切りあげて下さるように」と、頼むようにいった。

範宴はうなずいたが、やがて、小止観の講義が終ると、すぐ続いて、往生要集の解をあたらしく始めた。

「困ったことだ」

性善坊は大不服である。