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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

夕闇にちる花は、白い虫のように、美しく、気味わるく、光のように明滅している。

と――そこへ、

「お使いの者、もどりました」高松衛門が、あわただしく、告げてきた。待ちかねて、

「どうあった?」と、僧正がたずねると、使者は、次の間にぬかずいて、

「中務省の御印可、無事、下がりましてござります」と、復命した。

七

人々の顔に、喜色が、かがやいた。

「そうか、ではすぐに、得度の式をしてとらそうぞ。衛門、用意を」僧正の一令に、

「はっ」と、衛門は立つ。やがて、どっぷりと墨いろに暮れた御堂の棟木をつたわって、梵鐘の音が、ひびいてくる。

廊には、龕の灯が、ほのかに点る。勤行の僧たちの姿が、かなたの本堂で、赤くやけて見えた。

「どうぞ、こなたへ――」と一人の僧が、それへ来て、用意のできたことを告げると、範綱は、十八公麿の手をとって、静々と、橋廊下をわたって行った。

供の侍従介も、影に添って、おそるおそる、二人のうしろから従いてゆく。

伽藍には、一山の僧が、居ならんで、粛としていた。

座談の時とはちがって、慈円僧正は、やや恐いような厳そかな顔をもって、七条の袈裟を、きちっと裁いて正面に坐っていた。