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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

西、河内生駒路、東、伊賀上野道。

道しるべの石碑が立っていた。

さっきからその石碑のそばに、黙然と、笈ずるを下ろし、腰かけている山伏がある。

「……喉が渇いた」つぶやいて、辺りを見まわした。清水が欲しいらしいのであるが、水がないので、あきらめて、またむしゃむしゃと柏の葉でくるんだ飯を食べている。

その前を、性善坊が、急ぎ足に通ったので、山伏はふと顔を上げたが、はっと突き上げられたように立ち上がって、

「おいっ、おいっ」杖をつかんで、呼びとめた。

二

つい、行き過ぎると、山伏はふたたび、

「坊主、耳がないのか」性善坊は聞きとめて、

「何?」思わずむっとした顔いろをして振りかえった。

傲岸な態度をもって、自分へ、手をあげている山伏は、陽に焦けて色の黒い、二十七、八の男だった。

雨露に汚れた柿いろの篠懸を着て、金剛杖を立て、額に、例の兜巾とよぶものを当てていた。

「なにか御用か」性善坊がいうと、

「おお、用があればこそ、呼んだのだ」

「急ぎの折ゆえ、宗法のことならゆるされい」

「宗旨の議論をやろうというのじゃない。まあ、戻りたまえ」はなはだ迷惑に思ったが、由来、修験者と僧侶とは、同じ仏法というものの上に立ちながら、その姿がひどく相違しているように、気風もちがうし、礼儀もちがうし、経典の解釈も、修行の法も、まるで別ものになっている