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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

「よし、待っていろ、吉報は近いうちだ」

そう約束して、二人は、加茂堤を北と南へわかれた。翌晩、四郎は身軽ないでたちに黒い布を頭から顔へ巻いて、吉水禅房の外をうろついていた。

何気ない風を装って、禅房の門の前を通りながら、奥をのぞくと、まだ燈火が見えた。

客が話し込んでいるらしいのである。四郎は、樹蔭に立っていた。しばらくすると、一人の武士と二人の法師が、禅房を辞去して、門の外へ出てきた。

その訪客が出てゆくと入れちがいに、四郎はツイと門の中へ入った。――彼が入り込んだのを気づかない禅房の者は、その後で、門の扉を閉め、やがて、奥の燈火も消されて、静かな闇の底に眠りについた。

四郎は、易々と、墻の内へ入って、そこらの建物を見まわした。

講堂、房、書院、厨、寐屋などの棟が、かなり奥の林まで曲がりくねって建ててある。初めは、上人とその弟子の少数だけが住むに足るだけの、ほんの一草庵に過ぎなかったものが、いつのまにか、必要に迫られて、次々に建増して行ったので、屋根と棟に統制のないのが目につく。

「? ……」のそりのそり、四郎は腕ぐみしながら、その戸の外を忍び足に歩いた。