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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

「樹を伐れ」斧を持っていた手下の者が、

「へい」と飛びだしたが、渓谷である、樹は多い、どれを伐るのかと見まわしていた。

瀬にのぞんだ岩と岩とのあいだに柏樹の喬木が根を張っていた。四郎は指さして、

「そいつを河の方へ、ぶっ倒せ」と命じる。

「そうだ、なるほど」斧をひっさげた二人の者が、根方へ寄って、がつんと刃を入れた。斧の光が丁々と大樹の白い肉片を削って飛ばした。空にそびえている梢と葉が、この兇猛な人間の息にかかって、星のような涙をちらして戦慄する。みりっと、ややそれが、傾ぎかけると、大勢の手が幹の背を押して、

「もう一丁、もう一丁」と斧の努力を鞭撻した。

ぐわあん――と地盤の壊れるような音がして、白い水のはねあがった光が闇をまっ二つに割った。

「しめた」と黒い群れは叫ぶ。

仆れた大樹の梢の先が、ちょうど対岸の岩磐にまでとどいている。四郎のわらう声が高らかに動く影の間を流れた。もう先走った者どもは、架けられた喬木の梢のうえを、四つ這いになって猿のように渡っているのだった。

「あぶねえ、静かに来い」

「ひとつ廻ると、みんな振落されるぞ」

「おッと、どっこい」ひらり、ひらりと十幾つの人影は難なく跳び移った。