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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

と範宴は、霜を踏んだまま、凍ったように、唇の色を失って、梢のいうのを聞いていた。

四

なお仔細に事情を訊くと、弟の朝麿は、梢と逃げてくる旅の途中風邪をこじらせて、食物もすすまぬようになり、この附近の木賃旅籠に寝こんでしまって、持ち合せの小遣いは失くなるし、途方にくれているところだというのである。

「では……弟はわしに会いたいというて、おもとを使いによこしたわけか」

「ええ……」梢は、打ち悄れたまま、

「いっそ、二人して死んでしまおうかと、何度も、刃物を手に取ってみましたが、やはり、死ぬこともできません」と、肩をふるわせて泣き入るのであった。

無考えな若い男女も、途方に暮れたことであろうが、より以上に困惑したのは範宴であった。

まず第一に思いやられるのは、髪をおろして、せっかく、老後の安住を得た養父の気持だった。次には、生来、腺病質でかぼそい体の弟が、旅先で、金もなく、落着くあてもなく、これも定めて悶えているだろう容子が眼に見える心地がする。病のほども、案じられる。

「どこですか、その旅籠は」

「ここから近い、小泉の宿端れでございます。経本を商ぐ家の隣で、軒端に、きちんと板札が、打ってあります」