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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

――もしや、お病褥ではないかと、わしらは、案じているのじゃ」

鶏の骨を嘗りながら、女のお菰は、そういって、山門の外まで、送ってくる。

吉次は、心のうちで、うれしかった。その吉光御前というお方こそ、自分が主命をうけて、機会さえあれば世に出そうと苦心している鞍馬の稚子遮那王の従姉にあたる人なのであった。

「水溜りがあるぜ、小父さん」河童は、竹の棒で、真っ暗な地をたたいて、先に歩いていく。

鼻を抓まれてもわからない小路の闇に、野良犬が、吠えぬいている。犬すら、飢えているように、しゃがれた声に聞えた。

小川がある、土橋を越える。やや広い草原をよぎると、河童は、竹の先っぽで、

「あそこに、大銀杏が見えるだろう」と、指していった。

「……あの銀杏のそばの土塀が、正親町様だよ。藤原有範様のお館は、あそこを曲がると、すぐさ」

「や、ありがと」道をすすんで、二人は目じるしの大銀杏を横に曲がりかけた。すると河童は、何かに、驚いたように、

「おやっ?」と、立ちすくんでしまった。

八

「なんだ? ……、なんだろう……あれは?」河童は、眼を大きくしたまま、怯えたように、そうつぶやいた。