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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

九

今さらながら口惜しい。……のみならず、このよい年ごろをしてまで、この稲田の草庵の栄えを嫉み、自己の行法や道門の衰えを、ただおん身あるがためと憎み、板敷山に待ち伏せて、お生命をちぢめんものと、つい今日も、毒矢を研いでいたのであった。……怖ろしい、思えば、怖ろしい自分の心であった」

「だが――親鸞を害めなさろうとしたその心が、真の宿縁となって、ここにおん身が真実を吐き、わしが真実の手をのぶることとなったと思えば、その害心に、わしは掌をあわせる。まことをいえば、親鸞は、いつかおん身がこうして訪ねてくる日のあることを信じていた」

「えっ、それまで、この弁円の心が、わかっておいでであったか」

「何か、通ずるものがあったとみえる。わしの心には、おん身の心が映って、ぼんやりそんな気持がしていた。――その日が来たと思えばよろこばしい」

「おれの果報は、まだ尽きなかった。――そういって下さるからには、弁円の願いも聞き届けて下さろう。思えば得難い生を同じ時にうけ、得難い明師におれはめぐり会ったのだ。――親鸞どの」と、弁円は大地に膝を改めて、両手をついた。

「今日から、この弁円を、どうか御弟子の端になりと、加えてくだされまいか。