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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

覚明に懲らされて復讐に来た山門の法師たちのいかに獰猛であるかを知っているからである。

四

「あっ……覚明」彼女は思わず、彼方の部屋へむかっていった。

「――覚明っ、お止めしてください。お師さまが」太夫房覚明は、この事件を大事にした発頭人と皆から叱られていたのである。そのために、彼は、叡山から報復に来る者があっても、一切顔を出すなといわれ、一間のうちに、恐縮して首をすくめていたのだ。

――きょうもその相手が来た。

さっきからがんがん呶鳴っている戸外の声を、彼もそこで聞いていたのである。腕がうずくくらいなものだ。彼としては、飛び出して行って、自己の鉄腕ですっぱり解決してしまいたいことは山々だったが、これ以上争いに油をかけることは、裏方の心を傷めるだけでもよくないとじっと我慢していたところなのだ。

そこへ――

「覚明、お止めして」と、玉日の声が聞えたので、

「あっ」何かと驚きながら板縁を駈け出してゆくと、師の善信が、出あいがしらに、奥の一室を出てきたのであった。

「しばらく」覚明はひざまずいて、善信のたもとをとらえた。

「――私が追い返します、大事なおからだをもって、あのような乱暴一てん張りの荒法師に、お会い遊ばすことは要りませぬ」