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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

あの灯・この灯

一

――初め、そこに坐って、

「きょうは、出家功徳経の一部を話しましょう」と、くだけた優しいことばで話にかかり出した時、左右から、二人の弟子が、大きな団扇をもって、師の袂をあおぎかけたが、

「いらぬ……」軽く首を振られたので、

「は」と、恐縮して退がった。

それから、清水で巾をしぼって、そっと、側へすすめたり、煎り麦のさまし湯を上げたりしたが、長話のうち、一度も手にしなかった。

聴く人々の眼が、貪るように熱心なので、上人も、自分の体力とか、健康とかを、まったく忘れてしまっているらしいのである。弟子たちは、蔭で、

(ご無理ではないか)はらはらしていたが、止めようもないのであった。

出家功徳経のはなしは今、釈尊が、毘舎離国に入って、弟子の阿難と共に、その国の王子の生活ぶりをながめて、嘆いている――という例話に入っていた。

「ちょうど、食事の時刻でした。毘舎離国の城へ参って、仏は、食を乞われました。城中には、一王子があって、名を勇軍と呼ぶ者です。

――仏が来たと。あの有名な釈迦が来たのか。

勇軍は、仏に食を乞われたのは、わが家の誇りだと思ったのでしょう。こういうと、みずから出迎えて、