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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

柳と菩提樹

一

――びっしょりと冷たい汗の中に身は硬ばって眠っている。

死んだ児の泣き声――亡妻のうらめしげな顔――火の車、地獄、鬼、赤い火、青い火。

怖ろしい幻覚ばかりが、眼がさめても、瞼の前を往来している。がたがたと骨ぶしがふるえる。夜の明けるのが、刻々と、待ちどおしい。

「おッ」ふと寝床から顔を上げると、窓の破れ戸の隙間が赤く見えた。日の出だ、と彼は救われたように飛び起きた。そしてガラリと戸を開けてみたのである。

「――あっ」だが、空はまだ真っ暗だった。そして彼方の原を、十二、三名の僧形の人影が、おのおの、真っ赤な焔をかざして――それはもちろん松明であるが――粛々と無言を守って通って行くのが眼に映った。

「な、なんだろう」行列の先には、白木の箱を担ってゆく者だの、きらきらとかがやく仏具や幟をささげて行く者もあった。

「……そうだ。わかった。すっかり忘れていたが、今日は柳島の御堂の建立が成就したので、その入仏供養がある日だった」――まアよかったと安心したように、平次郎は戸を閉めたが、すぐ次の不安に襲われて、そわそわしだした。

「待てよ……お吉のやつの死骸を……あのまま捨てておいたが、今日は入仏の供養に、朝早くからたくさんな人が集まる。