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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

黒白

一

「どんな暴言を吐いた」

「仏法を亡すものは、仏弟子どもだといいおった」

「こいつが」と、一人は、彼の横顔を蹴って、

「一体、新参のくせに、初めから口論ずきで、少し自分の才に、思い上がっているんだ。縛れ、縛れ、くせになる」と、罵った。

黒白

一

座主の室で、銅鈴が鳴った。役僧のひとりが、執務所の机を離れて、

「お召しですか」ひざまずくと、帳の蔭で、

「範宴をよべ」と、いった。

「はっ」

「――ここではなく、表の方へ」

「かしこまりました」座主の慈円僧正は、そういってから後も、しばらく帳の蔭の机に凭って、紙屋紙を五、六枚綴じてある和歌の草稿に眼をとおしていた。それが済むと、何やら消息を書いて、

「待たせたの」と、縁の方へ、眼をやった。

京から使いにきた小侍がひとり板縁に、畏まっていたが、

「どう仕りまして」と、頭を下げた。

「では、これは月輪殿へおわたしいたして、よろしくと、伝えてください。――慈円も、登岳の後、このとおり、つつがのう暮しているとな」

「はい」草稿と、消息をいただいて、京の使いは帰って行った。

月輪の関白兼実は、すなわち座主の、血をわけた兄であった。で、時折に便りをよこして、便りを求めるのである。