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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
どうして、人間というものは、かくも楽しくあるものかと、今の幸福が勿体ないほど、ただ笑いが出る。
「離せ。……歌うてはやろうが、あの田植歌は、昌姫やそなたらのお守り歌ではない。……それ、野良にあって、ああして働いておりましょうが。……あの百姓衆に聞かせてやろうためじゃ」
「でも、お父様、お百姓たちは、みんな大人でしょ、子どもじゃないのに、どうしてお父様が歌をうたってあげるの」と、昌姫はもう、そんな疑いを父にたずねたという。
「なんの」と、親鸞は、この子にも、法の悦びを知る芽が宿れと祈りながら答えた。
「お百姓たちも、この父にとっては、皆、そなたたちと変りないわしの子じゃ。……どれ、きょうも好い日和、わしの可愛い子たちのために外へ出て、田植歌をうたおうか」親鸞が起ちかけると、
「お父さま、昌姫も、連れて行ってくだされ」
「わたしも」と、善鸞と昌姫は、両方から父のたもとにぶら下がった。
二
「そちたちも行くか」と、親鸞は、二人の子に手を引っぱられて、藁草履をはいた。裏方の朝姫も、
「どれ、お父さまのお出まし、お門までお送りしましょうかの」乳のみを抱いて、裏口へ出た。
親鸞は、草庵の裏へ出て、少し歩むと、井戸のそばに草履をぬいで、跣足になった。