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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
仕事に対する不平不満、生活の懈怠や憂鬱も、すべてその声念のうちに溶かされて、百姓たちは、心から働くよろこびに浸りきった。
その時、親鸞は、左に苗の束を持ち、右の手にそれを少しずつ頒け取っては、田水へ植え下ろしてゆきながら、心のどかに――静かなよい声で、農民のために彼が自分で作った田植歌を歌った。
五劫思惟の苗しろに
兆載永田のしろとして
一念帰命の苗を植え
念々称名の水をかけ
往生の秋になりぬれば
実りを見るこそうれしけれ
四
親鸞の歌う楽しげな節につり込まれて、百姓たちも、
一念帰命の苗を植え
念々称名の水をかけ
往生の秋になりぬれば
実りを見るこそうれしけれ
歌の通ってゆく後へ後へと、青い田ができて行くのだった。植えられた苗にはすぐ、生々と青いそよ風がうごいていた。
「ああ、自分も教えられるし、人にもこの教化は生かされてゆくだろう」
親鸞は、泥田に感謝した。この泥田こそ、どんな荘厳な教殿にも七宝の伽藍にも勝る教化の道場であるぞと思った。
――こういう生きた道場があるのに、前人有徳の聖者たちが、誰ひとりあって、土と汗の中で、こういう生きた教化に従事した例があるだろうか。