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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
だが、怪しからぬことには、彼がそこまで来る間にも、まだ一の手の者、二の手の者、すべてが一致を欠いて、林の中へ入ったり、崖を登ってみたり、谷間を探したり、ただうろついているに過ぎないのである。
「たわけ者めが、なにを猶予しているのだ。――親鸞は、親鸞は」
「さがして居申す」
「ばかっ。逃がしたのか」
「いや」
「ではどうしたのだ。先に、起ち上がったのは誰だ」
「甲賀坊でござる」
「甲賀坊、親鸞を見たのか」
「見ました」
五
「――見たというても、その親鸞の姿がどこにも見えぬのは何としたものだ」
「いや、たしかに」
「ではどこに――」
「あの爼板岩の辺りから――そういえば沢辺のほうへ降りたのかも知れぬ」
弁円と甲賀坊の押し問答を聞きながら、その親鸞の影を、きょろきょろ眼で探しているほかの者たちは、
「不審な」と、つぶやきあって、
「幻ではないか」迷路の辻に立ち迷っているような気がして、何か自身の錯覚に、背すじを寒いものに襲われた。
――すると、その錯覚感と静寂の不気味な空気をやぶって、どこかで、馬のいななきが高く聞えた。
明らかに、それは馬のいななきであったし、また、小石を弾くような蹄の音と共に、