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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

所々の水田も、地味が悪くて、稲は痩せていた。

人の数より、はるかに、五位鷺のほうが多かった。灰色の害鳥の群れが、わが物顔に、田を占め、木の実を盗んで、人間は鷺以下の者としか見えないほど、文化の光がなかったのである。

下野国芳賀郡の大内の庄とよぶ土地だった、そこの柳島に、一粒の念仏の胚子がこぼれたのは、二、三年前だった。

事はその胚子の結果である。

このころになって、常陸とか下総、上総あたりの念仏の諸弟子が踵をついで、この柳島の地方へ入ってきた、遠くは、陸奥の果てからさえ、聞き伝えた門徒が来て、旅装をここで解いている。

小屋が建った。人々は、そこへかたまって、炊事の煙を立て初めた。

土工や石工が集まってくる。大規模な土木が興ろうとするものらしい。たちまち、附近の山が削り取られて、赤土の肌が南向きにだんだんに拡がってゆく。

蟻が物を運ぶように、山を切り崩した土は、柳島の芦の沼地を埋めて行った。原始人の踏んだままにひとしかった茅原や青い沼水が、またたくうちに新しい土で盛り上げられて行った。その地盤の上に十二間四面の伽藍の礎が、さながら地軸のように置かれた、堂塔内陣の墨縄は張りめぐらされ、やがて檜の太柱と、巨大な棟木と、荘重な梁も組まれた。