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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

八

「離せっ、畜生」

「いや、そいつがわからねえうちは、離さねえ。なるほど、おれはお吉さんの相談相手にはなってやるが、決して色恋の沙汰じゃねえ、おめえというれっきとした亭主のある女――なんでおれがそんなばかなまねをするものか。よしまた、おれにそんな気持があったって、貞女のお吉さんが、おめえを裏切るようなことは、死んだってあるはずはねえ。お吉さんの貞操ただしいことや、亭主に尽しなさる行いは、この近郷で、誰だって、感心なものだといっていねえ衆はねえんだぜ。それをおめえが、事ごとに、邪険にしたり辛く当るので、お吉さんは、泣き痩せている。そこへ持ってきて、毎日の稼ぎ以上に、おめえは大酒を食らっているじゃねえか。その酒代をこしらえるのでも、人知れぬ苦労をしているお吉さんだ。そんなことから、何かとおれの家へも相談にくるので、おれも不憫と思って、小費いの都合をつけてやったりしているのに、それを、おかしい方へ気を廻して、おれとお吉さんとが、妙な仲ででもあるようにいわれちゃ、おれも、男が立たねえ」

「……痛えっ……おい和介。……痛えじゃねえか、手を離しやがれ」

「わかったかい、今の話は」