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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「わ、わかったよ」

「じゃあ、お吉さんの今日のこともおれに免じて、勘弁してくれるだろうな」

「女房のことあ、亭主の一存だ。他人のさしずはいらざる世話じゃねえか」

「それあ、兄哥のいうとおりだ。おめえとは、元からの兄弟子、その弟弟子が、小生意気な真似をして済まねえが、これも、どうかして、お吉さんとおめえと、仲よく暮してもらいてえためにやったこと、腹を立てないで宥しておくんなさい。……それに、ここはただの普請場とちがって、御城主様の発願による大事な御造営の場所――しかも勅額までいただくことになっている建立だ、そんな場所へ、万一、不浄な血でもながすようなことがあったら……」同じ大工仲間ではあったが、弟弟子の和介は気だてのやさしい男だった。涙さえ浮かめて、諄々と説いて聞かせたので、さすが兇暴な平次郎も、やや落着いて、

「離せよ、やいっ。……もう手荒なことはしねえから離せっていうのに」

「じゃあ、堪忍してくれるか」

「腹の立つ阿女だが、今日のところは、助けてやら。早く家へ帰って、酒の支度でもしやがれ」と、いいすてて、ぷいと、平次郎は普請場の蔭へ走ってしまった。

九

「さ、お吉さん……はやく家へもどったがいい」