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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「ありがとうございます」十八公麿の頬には、希望のいろが、紅くかがやいた。やはり、少年である。そう聞くと、いそいそと、玄関へ駈けて、

「介」と、弾んで呼んだ。侍従介と、箭四郎は、式台のすみに、うずくまっていたが、

「お、和子様、どうなされました」

「おゆるしを受けた」

「それは!」と、二人も胸を伸ばして、よろこんだ。

「上出来でございました。はやく、お父君にも、このことを」穿物をそろえて、塗の剥げた貧しい輦の轅を向ける。彼が、それに乗ると、学舎の窓から、

「やあ、どこの子だ」と、師の見えない隙をぬすんで暴れていた悪童たちが、墨だらけな顔や、悪戯ッぽい眼を外へのぞかせて、

「貧乏車」

「ぼろ車」

「なんぼ、くるくる廻っても」

「貧乏車は、ぼろ車」と、謡って、囃した。箭四郎は、窓のそばへ駈けて、

「雀ッ。何をいうぞ」

「わっ」と、笑いながら、いちどに、窓の首は引っ込んだ。

「箭四、大人気ないぞ、行こう」介は、牛の手綱をとった。

「わしが曳く」と、箭四郎は手綱を彼の手から取って、まだ、腹だたしげに、窓をふりかえりながら、

「こんな、悪さのいる学舎へ、大事な和子様をかよわせても、よいものかの」