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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「おい、祥雲」ひとりが、鑿を休めていう。

「なんだ」

「可愛らしい子じゃないか」

「ム、あの新発意か」

「どこかで、見たような気がするが……」

「おれも、そう思っている」塗師が、

「飯にしようぜ」足場を下りて行った。

「もう、午か」木屑を払いながら、彫刻師たちも、下へ辷った。

秋蝉が、啼いている。石井戸のそばに、坐りこんで、工匠たちは弁当をひらき初めた。

すると、院の廊下を、噂していた小さな新発意が、ちょこちょこと通って行った。

「もし、もし」光斎という彫刻師がよびとめた廊下のうえで、範宴少納言はにこと笑った。

「なあに、おじさん」

「あなたは、お幾歳」

「九歳」

「ヘエ、それでは、お小さいわけだ、いつから、この青蓮院へおいでになりました」

「春ごろから」

「じゃあ、半年にしかなりませんね」

「え、え」

「おっ母さんの乳がのみたいでしょう」

「ううん……」範宴は、首を振った。

「お邸は、どこですか」

「六条」

「では、源氏町のご近所で」

「え」

「ご両親が、戦に出て、討死にでもしたのですか」

「いいえ」

「どうして、お坊さんなぞに、なったんですか」

「知らない……」

「ご存知ない?」

「はい」

「お父様は、どなた」