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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

「六条の朝臣範綱」

「え、六条さま。――道理で」光斎は、仲間の祥雲と、何かささやき合っていたが、やがて、

「範宴さん」

「はい」

「じゃ、あなたは、日野の里で、お生れなさったでしょう。私たちは日野のご実家の方へ、半月ほど、仕事に参ったことがありましたっけ――大きくおなりになった」

「では、日野の館の仏間は、おまえたちがこしらえたの」

「あの中のご仏像を、やはり、修繕しにゆきました」

「おじさんたちは、仏像を彫るのがお仕事なの」

「そうです」光斎は、しげしげと、欄にもたれている範宴をながめて、

「その顔を、そのまま彫ると、ほんとに、いい作ができるがなあ」と、つぶやいた。

「じゃあ、彫ってもいいよ」範宴は、すぐにでもできるように、そういって笑った。

二

「彫らしてくれますか」光斎と、祥雲の二人は、顔を見あわせた。

(彫りたい)

(彫ろう)という創作慾にそそられて、

「じゃあ、明日から、飯やすみのたびに、ここへ来てください」と、約束した。

午になると、二人は、足場を下りてきた。範宴は、欄の上に立った。

材は、かなり大きな木を用いた。三尺ぐらいな坐像に仕上げるつもりらしい。二人の仏師は、飯を噛みながら毎日、鑿を持って、範宴の輪郭を少しずつ写して行った。