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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

雪千丈

一

歩きながら、尽きない話を、喋舌っていた。

「――そんなかのう」

「現世で、地獄の風のふかない所は、まず、御所にもなし、お寺の庭だけでございましょうよ。――昨夜あたり、五条の近くまで、用たしに出ると、磧に、斬られたか、飢え死にしている死骸の着ている衣を、あさましや、野武士か、菰僧か、ようわかりませぬが、二、三人して、あばき合って、果ては掴みかかって争っているではございませんか。まったく、眼を掩うてでなければ、町は歩いていられませぬ」山門には、鴉が啼いていた。

「ああ、暮れる……」と、つぶやいて、袖門の潜りを出て、箭四郎は、もいちど、振りかえった。

「では――ごきげんよろしゅう、和子さま、いや範宴様、これから寒くなりますから、おからだをな……介どの、さようなら」

雪千丈

一

粟田口の雑木の葉がすっかり落ちきって、冬日の射す山肌に、塔の欄が赤く見える。

霜は、朝ごとに、白さを増した。

範宴少納言は、暗いうちに起きて、他の僧たちといっしょに、氷のような廻廊を、水で拭く、庭を掃く、水を汲む。

それから勤行の座にすわる。

やっと、南天の赤い実に、陽のあたるころとなって、厨の一仕事をいいつけられる。