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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「はい」

「ま、そこへ掛けろ」と、妙光房は、岩を指さした。素直に、腰かけると、

「範宴少納言という童は、おまえの主人だそうだな」

「主従とは、もとの俗縁でございます。ただいまでは、この性善坊にとりまして、天地にお一人の師の御房でございます」

「はははは」大法師は、歯の裏が見えるような、大きな口を開いて、

「あの、人形みたいな小法師が、おまえの師か。うわははは……」肩を揺すぶっておかしがるのである。性善坊は、まじめに、

「はい、私の師は、範宴さまお一人にございます」

「ものずきな奴もある。まあ……そんなことはどうでもいい、訊きたいのは、別儀でもないが、その小法師が、近いうちに、入壇いたして、大戒を授かるとかいう噂がもっぱらにあるが、嘘だろうな」

「さあ?」

「ほんとか」

「ありそうなことに存じます。けれど、嘘かも知れませぬ」

「あいまいなことをいうな。貴様の師のことを、貴様が、知らんはずはない」

「これは、迷惑なおたずねです。入壇授戒の大法は、一に、御仏のお心にあることです。それを執り行う碩学のお眼にかのうた者が授かるものだと伺っております。なんで、私のような末輩が、知ろう道理はありません」