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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

平家の門閥が、民を顧みるいとまもなく、民の衣食を奪って、享楽の油に燃し、自己の栄耀にのみ汲々としている実相が、ここに立てば、眼にもわかる。

(これでいいのか)天に問いたい気がした。

(どうかしなければならない。――神の力でも、仏の力でも駄目だ、兵燹は、神をも、仏をも、焼いてしまったではないか。――人の世を正しく統べるものは、人の力だ、真実の人間だ。ほんとうの人間こそ、今の時世に、待たれるものだ)

そう考えて、彼は、鞍馬の遮那王に近づきつつある自身の使命に重大な任務と、張合いを感じた。

「やいっ、誰だ」すると、一人の乞食が、彼を見つけて、咎めた。

七

去りかけるとまた、

「やいっ、何だ汝ゃあ?」傀儡師だの、菰僧だのが、起って来そうにしたので、

「へい」吉次は、戻って、

「雨宿りをしていた旅人でございます」

「旅鴉か」

「やみましたから、出かけたいと思いますが、日野の里へは、まだ、だいぶございましょうか」

「日野なら、近いが、日野のどこへ行くのだ」

「藤原有範様のお館まで。はい、使いに参りますので」

「あ、あのお慈悲ぶかい吉光御前様のお住居だよ」頓狂な声をして、女のお菰が立った。