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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

走り出そうとするので、

「あっ、若様っ、どこへ――」と、孤雲は彼が歓びのあまりに気でも狂ったのではないかと驚いて抱きとめた。

「離せ」

「どこへおいでになるのです。若様の行く所へなら、どこへまでも七郎とてもお供をいたす覚悟でございます」

「山を去る前に、範宴の細首を引ン捻ってくれるのだ」

「滅相もない。範宴さまと、性善坊どのとは、この身に恩こそあれ、お恨み申す筋はありません」

「いや、俺は、嫌いだ」

「嫌いだからというて、人の生命をとるなどという貴方様のお心は、鬼か、悪魔です」

「貴様までが、俺を、悪魔だというか。俺は、その悪魔になって、範宴とも、闘ってやるし、この山とも、社会とも、俺は俺の力のかぎり、争ってやるのだ」

「ええ、貴方様はっ」満身の力で、狂う彼をひきもどして、道へ捻じふせた。そして、

「まだ、そのねじけたお心が、直におなり遊ばさぬかっ。お父上のご死去を、ご存じないのですか。家名を何となされますか。ここな、親不孝者っ」と主人の子であることも忘れて、胸ぐらを締めつけた。

「あっ、くるしい。こらっ七郎、貴様は俺を撲りに来たのか」

「打ちます、撲ります。亡きあなた様のお父上に代って、打たせていただきます」