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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「人間の社会というものは、ちょうど春先の野火焼とおなじようなものでございますな。――焼けば焼くほど、後から草が伸びてくる……」と、性善坊は、感心していった。

一見、戦は、急速に社会を進化させるもののように見える。そして、誰一人、ここに生きているものは戦を呪っていなかった。

その代りに、人間は、おそろしく、刹那主義になっていた。平家の治世がすでにそうだったが、一転して、源氏の世になると、なおさら、その信念を徹底してきたかのように、女は、あらん限り美衣をかざり、男は、絶えず、息に酒の香をもって歩いていた。

「――坊んさん」

「お法師さま」六条のお牛場のあたりを、二人は、見まわしていると、かつて、その辺の空地に寝ころんでいた斑ら牛や、牛の糞に群れていた青蠅のすがたは一変して、どこもかしこも、入口の瀟洒な新しい小屋や小館で埋っていた。

店の前を、網代垣でかこんだ家もあるし、朽葉色や浅黄の布を垂れて部屋をかくしている構えもある。また塗塀ふうに、目かくし窓を作って、そこから、呼んでいる女もあるのだった。

「これが、元のお牛場であろうか――」と、範宴も、性善坊も、茫然としてたたずんでしまった。