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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

九

九

「誰じゃ」姿は見えない。門をへだてて、中にいる侍が訊ねた。

「砂金売りの吉次と申しまする。お館様か、御奥の方に、さよう、おつたえ下されば、おわかりでございまする」

「吉次?」考えているらしい。

雨あがりの草叢に、虫が啼きぬれている。吉次はまた、ことばを足して、

「――奥州の堀井弥太と仰っしゃってくだされば、なおよくお分りのはずでございます。かねがね、ご書状をもちまして」いいかけると、ガタンと、門の扉がうごいて、

「秀衡殿のお身内人、堀井殿か」

「いかにも」

「それは、失礼を――」すぐ開けて、

「拙者はいつも、おん奥の御代筆を申し上げ、また、そちらよりの御書面にも、拙者の宛名で御状をいただいておる、当家の家来、侍従介でござる」と二十歳ぐらいな若侍が顔を出した。

「や、そこもとが」

「初めて、御意を――」二人は、旧知のように、あいさつを交わした。

「おん奥の方には、先つ頃、上洛りました節、清水の御堂のほとりで、よそながらお姿を拝したことがござりますが、お館には、今宵が初めて」

「よう御座った、まず」と、内に入れて、侍従介は、門を閉めた。

壺の内も外も、境のないほど、秋葉が生いしげっている。